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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)5737号 判決

原告 株式会社富士銀行

被告 合名会社田中製革所 外二一名

一、主  文

被告等は各自原告に対し金千四百五十三万円とこれに対する昭和二十五年四月一日以降完済までの金百円につき一日金二銭七厘の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告において各被告に対し金百五十万円宛の担保を供するときは、その担保供与を受けた被告に対し仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求めると申立て、その請求の原因として、

(一)  原告は被告合名会社田中製革所(以下被告会社と略称する。)との間に昭和二十三年七月二十七日原告は被告が振出、引受、参加引受、裏書又は保証をした約束手形並に為替手形につき、その手形金額合計が金千五百万円に達するまでの範囲内で手形割引の方法による融資に応ずべく、被告会社は右の如く割引を受けた手形が満期に支払われないときは、原告の定める手形割引率による満期後の損害金を支払う旨の手形取引契約を結んだところ、

(二)  その後昭和二十四年十月十七日被告田中邦彌と被告田中謙は右手形取引契約による取引により被告会社が原告に対し、すでに負担し、又は爾後負担すべき債務につき連帯保証をした。

(三)  被告会社は右手形取引契約に基いて原告宛に、

(イ)  昭和二十四年十月十七日金額六百万円、満期昭和二十五年一月十四日、支払地並に振出地、東京都品川区、支払場所原告銀行荏原支店となつている約束手形一通を、

(ロ)  昭和二十四年十月二十七日金額百五十万円、満期昭和二十五年一月二十日、支払地東京都品川区、支払場所(イ)に同じ、振出地東京都中央区となつている約束手形一通を、

(ハ)  昭和二十四年十月三十一日金額二百万円とした外、その他の記載事項(ロ)に同じの約束手形一通を、

(ニ)  同年十一月二日金額二百三十万円、振出地を東京都品川区とした外、その他の記載事項(ロ)に同じの約束手形一通を、

(ホ)  同年十一月十日金額百二十万円とした外、その他の記載事項右(ニ)に同じの約束手形一通を、

(ヘ)  同日金額二百万円とした外、その他の記載事項(ニ)に同じの約束手形一通を、

振出したが、その内(イ)の手形は被告田中謙吉が(ロ)乃至(ヘ)の手形は被告田中邦彌がいずれも被告会社代表社員として振出したものである。

(四)  原告は現に右(イ)乃至(ホ)の約束手形の所持人であるが右各手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶された。

(五)  右各手形の取引に際しては手形の割引率は金百円につき一日金二銭七厘と定められていたが、被告会社は昭和二十五年三月三十一日に右各手形金に対する満期以降同日までの約定損害金を支払つた外、同年四月十二日(イ)の手形に対する一部支払として金四十七万円を支払つたのみである。

(六)  されば、被告会社は前示各手形の振出人として、未済手形金と手形取引契約による遅延損害金とを、又被告田中謙、田中邦彌は連帯保証人として右契約に基く取引により被告会社の負担した債務を支払う義務があるわけであるから原告は以上の被告三名に対し各自原告に対し手形金合計千四百五十三万円((イ)の手形の一部支払分を控除したもの)とこれに対する昭和二十五年四月一日以降完済までの日歩金二銭七厘の割合による損害金の支払を求めるものである。

(七)  被告会社を除いたその余の被告等は何れも被告会社の無限責任社員であるところ、

(八)  原告は被告会社に対する手形債権取立のためにする保全のため昭和二十五年五月被告会社所有動産に付仮差押をしたが評価額僅に八千六百円相当の什器類を仮に差押えることができただけで他に執行の対象となり得る動産もない有様で、被告会社の資産で債務の弁済に資することのできるものは総額三百六十五万五千五百九十七円余に過ぎないのに対し、債務総額は四千三百八十二万二千二百二十四円余に達し差引四千十六万六千六百二十六円程度の債務超過であり、しかも被告会社は昭和二十五年二月頃経営破綻し従業員も解雇し事業は休業中であり、会社財産を以てしては到底会社の債務を完済することができない状態にある。

(九)  よつて原告は(六)に記載した被告三名以外の全被告に対し被告会社の無限責任社員として各自(六)記載の被告会社の債務全部につき、支払を求めるものである。

と述べ、

被告田中謙、田中謙吉、田中恵美子、田中和夫、田中美枝子、田中春夫、三野勉、三野道子、小田切春雄、田中幸明、田中純子、武本源四郎、中田定吉、東条作市、三俣宏、栗原和雄、瀬川雄三、篠崎寛(以上弁護士中沢喜一により代理される被告中、被告会社並に被告田中邦彌の両名を除く爾余の全被告)並に被告篠窪重弘の答弁に対し、

仮に(ロ)の手形振出当時田中邦彌が被告会社を代表する権限を有する社員ではなかつたとしても同人は昭和二十四年八、九月頃から同人が代表社員となる直前の代表社員である実兄田中謙吉から被告会社を代表して原告に予て届出済の社印並に業務執行社員印を使用し、被告会社の内外における業務を執行することを許容されていたのであり、原告は右謙吉及び邦彌の両名の父であり且被告会社の社員である被告田中謙からも邦彌が被告会社を代表する権限のあることを告げられていたので邦彌に被告会社を代表する権限のないことを知らなかつたのであるから、商法第二百六十二条の規定並に民法の表見代理の規定の法意に照し、被告会社は(ロ)の手形振出人としての責を辞することはできないと述べた。<立証省略>

被告会社外十九名(弁護士中沢喜一により代理される全被告、以下同断)訴訟代理人並に被告篠窪重弘は原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張事実中、

(一)の原告と被告会社との間に原告主張の手形取引契約が成立したことは被告会社並に被告田中謙吉においてはこれを認めるが、その余の被告等においては不知、

(二)の事実は被告田中邦彌、田中謙においてこれを否認する。尤も昭和二十四年十月二十八日原告と被告会社間に原告主張の(一)の如き内容の手形取引契約が新に成立し、右契約による爾後の取引により被告会社の負担すべき債務につき邦彌、謙の両名が連帯保証をしたことはあるが、同日前に被告会社のすでに負担する債務につき保証の責を負うような契約をしたことはない。

(三)の事実中、

(イ)の約束手形振出の事実は被告会社並に被告田中謙吉においては認めるが、その余の被告等は不知、

(ロ)乃至(ヘ)の約束手形振出の事実は被告会社並に被告田中邦彌においては認めるが、その余の被告等は不知、

なお、被告会社並に被告邦彌以外の被告等としては仮に(ロ)の約束手形を被告田中邦彌において被告会社を代表して振出した事実があるとしても、邦彌が被告会社の代表社員となつたのは昭和二十四年十月二十八日であり従つて(ロ)の手形振出当時は代表社員ではなかつたのであるから右手形については被告会社は振出人としての責は負わないと主張する。

(五)の手形割引率が日歩金二銭七厘と定められていたことは否認するが被告会社より手形金の支払として金四十七万円と手形金に対する遅延損害金を支払つたことは認める。

(七)の事実は認める。

(八)の内原告がその主張の仮差押をしたことは認めるがその余の事実は否認する。

元来被告会社は相当の業績を挙げていたのであるが、昭和二十三年二月十七日当時被告会社代表社員であつた被告田中謙吉は泰和海運株式会社という海上運送並に船舶用機械、器具の売買等を目的とする会社を設立してその経営の実権を握つていたが、巨額の損害を蒙つたので、謙吉並にその実弟である被告田中邦彌は同会社の用に供する資金の融通を原告から受けるため、すでに被告等の一部の者が認めているように、被告会社を代表して原告との間に手形取引契約を結び、又約束手形を振出したのであるが、右の如く被告会社を締約名義人並に手形振出名義人としたのは全く名義だけ、形式だけのことであつて真実の締約者並に手形振出人は上叙泰和海運株式会社であり、右事実は締約の相手方並に手形受取人である原告においても承知の上であつたから、以上の手形取引契約は原告並に被告会社代表者の通謀してなした意思表示による無効のものであり、又手形振出も被告会社代表者がその真意に出るものでないことを知つてなしたもので、しかも原告においては被告会社代表者の真意を知つていたのであるから、少くとも被告会社に関する限りは無効であると述べた。<立証省略>

被告若林正一の訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め原告主張事実中被告(若林正一)が昭和二十五年四月五日総社員の同意を得て退社する以前においては原告主張(七)の如く被告会社の無限責任社員であつたことを認めるがその余の事実はすべて否認する。仮に形式上原告が(一)及び(三)に主張する如く被告会社名義を以てする手形取引契約の締結並に約束手形振出の事実があつたとしても、それは相被告等の主張する如く原告より訴外泰和海運株式会社に融資するため、原告並に被告会社が通謀してなしたる締約並にその真意を知つていた原告に対する被告会社の心裡留保による手形振出であり、何れも無効のものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告主張の(一)の事実は被告会社並に被告田中謙吉においては認めるところであり、その余の被告については証人相良亮一郎の証言並に被告田中謙吉に対する本人訊問の結果と以上の証言及び本人訊問の結果により真正に成立したと認められる甲第十号証により、これを認めるに十分である。

次に被告田中邦彌、田中謙に関する原告主張の(二)の事実についてしらべて見ると前示甲第十号証、同被告において、成立を認める甲第一号証、証人相良亮一郎、岸善一郎の各証言並に被告田中邦彌、田中謙に対する各本人訊問の結果を綜合すれば、被告会社は前示(一)の契約に基き、手形割引の方法で原告から資金の貸与を受けて来たが、昭和二十四年九月中旬被告田中邦彌はその兄被告田中謙吉の跡をうけて被告会社代表社員となり、被告会社の営業用資金に当てるため、更に多額の資金の貸与を原告に求めて来たので、原告はその貸与方を承諾し、上叙(一)の契約を継続して手形割引の方法による融資をすることとなつたが被告会社の代表社員が謙吉から邦彌に更替した関係もあり、且右契約に基く取引による被告会社の債務につき被告田中邦彌、田中謙を追加的に連帯保証契約を結んだので昭和二十四年十月十七日その連帯保証証書の趣旨で(一)の契約書と同一内容の契約書(甲第一号証)を作成しその契約書に連帯保証人として被告邦彌、謙に記名捺印させたが、当時被告邦彌はまだ被告会社代表社員となつた旨の登記を経由していなかつたので、連帯保証書(甲第一号証)の日附は原告方の銀行員が右登記経由の日附を記入したものであることが認められる。右認定の下では甲第一号証の日附が認定の作成日附と合致しないことは何等の支障もないし、他に上叙認定を左右し得る証拠はない。右認定の事実からすれば被告邦彌、謙は原告主張の(一)の契約に基く取引による被告会社の債務につき連帯保証をなしたものであり、少くとも昭和二十四年十月十七日以降の取引による債務につきその保証の責を免れないものと云わざるを得ない。

原告主張の(三)の手形振出の事実中(イ)の手形振出の点は被告会社並に被告田中謙吉において、又(ロ)乃至(ヘ)の手形振出の点は被告会社並に被告田中邦彌において何れも認めるところであるが、手形振出の事実を争う被告に対する関係においては証人相良亮一郎、岸善一郎の各証言、被告田中邦彌、田中謙吉に対する各本人訊問の結果並に右各証言と被告邦彌本人訊問の結果により真正に成立したと認められる甲第三乃至第七号証の各一、被告田中謙吉がその成立を認めている事実と被告田中邦彌、田中謙吉に対する各本人訊問の結果からして真正に成立したと推定される甲第二号証の一を綜合すれば被告田中邦彌は前示(一)の契約に基き融資を受けるため、被告会社の代表社員として自己の代表名義で(ロ)乃至(ヘ)の約束手形を振出した外、被告田中謙吉の代表名義を使用して(イ)の約束手形を振出したこと、右(イ)の手形振出当時、被告田中邦彌はすでに判示したところから明なように、兄謙吉に替り、被告会社の代表社員となつていたが、まだその代表社員変更の登記を経由していなかつたので登記面上代表社員であつた謙吉の代表名義を使用して(イ)の手形を振出したものであるが右処置については謙吉もこれを是認して居り、原告も右事情を了承していたこと、並に(ロ)の手形振出当時においても被告邦彌の代表社員としての登記は経てなかつたが、原告は、被告邦彌、謙吉兄弟の父である被告謙から被告会社代表者は謙吉より邦彌に更替されたからよろしくとの挨拶を受け且邦彌よりその代表社員としての登記を経た旨の報告を受けた(実は右報告の翌日登記がなされたのであるが)ので右報告を信じて邦彌の代表名義で(ロ)の手形の振出を受けたことを何れも認めることができる。右認定に係る事実からすれば(ロ)の手形振出当時被告邦彌はすでに被告会社の代表社員となつていたのであるから、その登記の有無を問わず、被告会社を代表して同会社のために手形を振出すことができるわけであり、従つて(ロ)の手形振出により被告会社は(ロ)の手形債務者となつたものであると云わなければならない。けれども(イ)の手形についてはその振出当時被告謙吉はすでに被告会社の代表社員ではなかつたのであるから、たとえ登記面上は従前通り代表社員となつていても被告会社を代表して手形を振出す権限はないわけであり、右の登記の存在に拘らず、謙吉の代表社員でないことを知つている者に対してはその代表権限のないことを被告会社並にその社員において主張できるものであるところ、(イ)の手形振出当時、すでに判示したように原告は被告会社代表者が謙吉から邦彌に変更されたこと、換言すれば謙吉は代表社員ではなくなつたことを知つていたのであるから、右(イ)の手形は代表権限のないものによつて振出された手形として被告会社において振出人としての責任を負わないものと一応は云い得るわけであるが前示甲第十号証によれば右手形振出の基礎となつている(一)の手形取引契約中(契約第五条)には手形がその要件を欠いている場合でも、被告会社は手形面の金額について支払の責に任ずる旨の約定があり、右約定の趣旨は、被告会社を代表して手形行為をなす権限を有する者が、被告会社のために手形行為(本件においては振出)をした手形については、手形としての形式的要件又は実質的要件を欠いているために、手形としては本来無効であるべき場合でも、被告会社は、その手形が有効である場合と同一の支払の責に任ずることを約したものと解するを相当とするところ、本件(イ)の手形は被告会社の代表権限を有する被告邦彌が同会社のために振出したものであることはすでに説示した通りであり、ただその振出に際しすでに代表権限を喪失した被告謙吉の代表名義を使用したために実質上の要件を欠いたものであるから右の約定に基き被告会社は(イ)の手形が実質上の要件を具備している場合と同一の支払の責を負うことになるわけである。ところで右の責任も原告主張の(一)の契約と(三)の手形振出とによるものであるから、請求原因の同一性を失うものではない。以上述べたところにより被告会社は(ロ)乃至(ヘ)の約束手形振出人としての責を負い、又(イ)の手形については手形取引契約に因り振出人と同一の責を負つているわけであり、しかも原告主張の(二)(三)の主張についての上記判示した認定事実からすれば、被告会社はその営業資金の融資を受けるため、真実、手形取引契約の締約当事者となり、且自己のために本件各手形を振出したものであつて、被告等の主張するが如く、訴外泰和海運株式会社などのために、単に締約上又は手形振出につき形式上の名義人となつたものではないことが明である。

次に原告主張の(四)の点については(イ)乃至(ホ)の各手形の支払場所が原告方店舗であり前示甲第二乃至第七号証の各一が現に原告の手中にある事実よりして、満期に支払場所に呈示されたことは容易に推定することができる。

原告主張の(五)の点については本件各手形の割引率が金百円につき一日金二銭七厘と約定されていたことは証人岸善一郎の証言並に被告田中邦彌に対する本人訊問の結果によりこれを認めるに十分である。

さて以上説示して来たところからして先ず原告の被告会社、被告田中謙、田中邦彌の三名に対する請求の当否について判断すると原告が被告会社から(イ)の手形金額の内、金四十七万円の支払を受けたことは原告の自陳するところであるから、被告会社は手形振出の責を負う主たる債務者として、被告謙、邦彌の両名は連帯保証人として各自原告に対し(イ)の手形金額から右四十七万円を控除した額に相当する金五百五十三万円と(ロ)乃至(ハ)の手形金とを合算した金千四百五十三万円と、これに対するその支払期後である昭和二十五年四月一日以降完済までの約定率金百円につき一日金二銭七厘の損害金を支払う義務があることは明であり、右義務の履行を求める原告の請求は正当である。

そこで右三名以外の被告に対する原告の請求につき考案を続けると、

原告が(七)に主張するように被告会社以外の各被告が被告会社の無限責任社員であることは被告若林正一を除いたその余の被告の認めるところであり又被告若林正一においても昭和二十五年四月五日前においては無限責任社員であつたことを認めるものである。(同被告は同日総社員の同意を得て退社した旨主張するが、退社員は退社登記までに生じた会社の債務につき責任があるので、この主張は請求の当否に消長を及ぼすものではないが、単に現在は社員でないことを明にしたにすぎない。)

原告主張の(八)の被告会社の資産状態については原告が被告会社に対する手形債権取立のためにする執行保全のため昭和二十五年五月被告会社所有動産につき仮差押をしたことは被告若林正一以外の各被告の認めるところであり又被告若林正一に対する関係では成立に争のない甲第九号証によりこれを認められる。ところで右仮差押により差押えることのできた被告会社所有の什器の当時の価格は右甲第九号証によれば合計八千六百円にすぎないことが明である。又証人相良亮一郎、岸善一郎の各証言、被告田中邦彌に対する本人訊問の結果の一部並に右各証言と本人訊問の結果により真正に成立したと認められる甲第十一乃至第十三号証、第十四号証の二、第十五号証、成立に争のない甲第十九号証を綜合すれば被告会社の資産としては上叙仮差押物件は別として、東京都荒川区三河島町八丁目三百五番地の二所在、被告若林所有名義の木造瓦葺コンクリート二階建工場一棟と右工場に所在する機械とに過ぎず、その余の被告会社貸借対照表(甲第十一号証)貸借対照表明細書(甲第十二号証)、貸方明細表(甲第十三号証)決算報告書(甲第十四号証の二)試算表(甲第十五号証)に載せられているその余の資産(積極財産)は実在しないものであることが認められる。尤も証人西巻正二郎の証言並に成立に争のない乙第五号証によれば被告会社は終戦当時相当多量の原皮の払下を受けていたことは認められるが、その現存しないことも右証人の証言により窺知することができるのである。さて次に被告会社の工場と機械の価額については前示甲第十九号証によれば工場の現価は金百七十六万六千六百円であり、又機械の現価は、債務の弁済に充て得る資産としては、その処分価額によるを相当とするところ、鑑定人渡辺雄二郎、四ツ橋雄次郎の各鑑定の結果によれば金二十三万円程度のものであることを認めることができる。被告田中邦彌に対する本人訊問の結果中、原告に対する債務については上叙工場並に機械を担保に供しているがその担保物件の価額と債務額とは相匹敵する旨の供述があるけれども右供述は信用できない。以上被告会社の債務の弁済に充て得る資産としては仮差押物件工場及び機械、この価額合計約二百一万円であり従つて原告が自陳する資産総額三百六十五万余円を越えないのに対し被告会社は原告に対してだけでもすでに判示したように千四百五十三万円の債務を負担しているばかりでなく、証人岸善一郎、黒田徳蔵の各証言並に被告田中邦彌に対する本人訊問の結果を綜合すれば被告会社は原告に対する右債務の外、訴外株式会社協和銀行その他に対し合計約二千二百四十万円の債務を負担していることが認められるので、会社財産を以て会社の債務を完済することができない状態にあることは明白である。

して見れば、被告会社、被告田中謙、田中邦彌の三名以外の各被告も被告会社の無限責任社員として(被告若林は退社しているとしても、その社員であつたことからして)さきに上叙三名の被告について判示したと同一の金員支払義務を原告に対し各自負担していることも明であるから右義務の履行を求める原告の請求も亦正当である。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項前段を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を(無担保申立の部分は不相当と認めて棄却する。)それぞれ適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎)

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